本文は、 私柿原啓志の娘、柿原梨那が、財団法人日本独文学会 ドイツ語学文学振興会が定期発刊する会報誌『ひろの』2006年 第46号に寄稿したものです。



私のドイツ語


私にとってドイツ語とは、母国語でないことは確かなのだが、恐らくその母国語に限りなく近い存在であるのかも知れない。

私は幼稚園まで日本で育った。 そこで父の仕事の関係から、突然に家族揃ってのドイツ行きが決まったのだ。当時6歳になったばかりの私は、その時の心境については覚えていない。 特に悩んだ覚えもない。 恐らく私は日本を離れること、また全く知らない国でこれから生活するということを少しも認識していなかったのだろう。それは、私が幼かったからでもあるが、性格的にあまり深く考え込む質ではなかったからだと思う。


このような性格であって、ある意味では海外生活において随分救われたのかもしれない。 勿論、実際にドイツへ行き、現地の小学校に通いはじめた時は戸惑いも多かった。 当然のことだが、まず一番困ったのは言葉である。その当時私が知っていたドイツ語といえば、せいぜい親に教えてもらっていた „schönes Wetter heute!“と„Guten Tag! “の6歳児にはあまり便利とはいえない二つの表現であった。 周りの子ども達から話し掛けられても、答えることはおろか、理解することもできなかった。


しかし、私は本当に素晴らしい担任の先生、そして優しい友達に恵まれ、その人達の思いやりと忍耐力のお陰で、徐々にドイツ語の基盤をつくり上げていけたのだ。また、当時は現地校に通う日本人も少なく、私の小学校にも頼れる日本人は他にはいなかったため、私は自然にドイツ人に囲まれていることに慣れ、また友達も増えていった。 小学校の3年間はドイツ語に集中する生活であったため、日本人の友達ができよう筈もなく、日本語で話す機会も家にいる時だけであった。


つまり、私のドイツ語はある意味では母国語である日本語を犠牲にして上達したといっても決して過言ではないだろう。自分の容姿が周りのドイツの子ども達とは違うことには気づいていたが、子どもだったこともあり、矢張りその点も特に深くは考えず、コンプレックスなどを感じることなどもなかった。 このように何一つ不自由のない生活を私はドイツで送ることができたのである。


ところで、自分について述べるだけではあまり面白くないので、私が感じ得るドイツ人と日本人の最も異なる面について述べてみたい。ドイツでは日本とはまったく逆で、幼い頃から自分の意見を主張する教育を受ける。 それができないと、学校生活ばかりでなく友達関係においても非常に困るのだ。 ともかく、日本人とドイツ人の社会性の最大の違いはその点にあるのだろう。


これに対して日本では逆で、自分の意見をあまり主張しないほうが人間関係を円滑に運べるという傾向があるように思う。その日本とドイツのメンタリティーの違いは再び日本で暮らすようになって初めて実感した。 ドイツはまさしく「批判」の国と言える。 今年のサッカーのW杯をテレビで観戦して改めて感じたことを一例として挙げてみたい。それは、日本のサッカー解説者とドイツの解説者の違いである。


とにかくドイツのコメンテーターは選手に対して容赦なく厳しい。 素人目ではあるが、比較的に良いプレーをみせているにも拘わらず、ドイツ人の場合は試合中も試合後もおよそ選手を褒めることは日本に比べると圧倒的に少ない。 どんなに圧勝したとしても、試合後には必ず批判の声が聞こえる。 逆に日本人は批判を好まず、「褒め」、「慰め」と「励まし」に関する達人のようである。 どんな悲惨なプレーをしたとしても、「今のはしょうがないですね~」などと、解説者はフォローすることに余念がない。 そのようなコメントを聞く度に私は、これがドイツのチームであったらただじゃ済まないだろう、と思わずにはいられない。 実際、私も友人に日本チームの弱さを指摘し、予選での敗退を予想した時、冗談ではあるが、「非国民」と叱られてしまった。


したがって、日本人はオブラート依存症であり、ドイツ人は批判大好き国民であるという結論に私はたどり着いたのである。両国民ともに実に極端であり、かつ対照的なのだ。とはいうものの、この二つの国に深い絆と関係を持つことができる私は限りなく幸せである。私はとにかくドイツが大好きである。ドイツは私に染みついているといっても良いほどだ。私にとってのドイツ語とは、考えや、気持ち、とにかく「自分の姿」を一番明確に表現できる言葉なのである。


Logo der Veranstaltung "Der Demographische Wandel: Japan und Deutschland im Vergleich"| Foto: KAS

 柿原梨那 略歴

1986年東京生まれ。1992年デュッセルドルフに移住。2005年6月アビトゥアを取得後、ギムナジウム卒業。2005年8月に帰国。2006年4月慶応義塾大学法学部法律学科に入学。(2005年度独検1級1位合格者) 現在は、バイエル・ジャパン・ホールディングス(株)東京本部に勤務。




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